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『左官』にかける思い
伝統工法との出逢い
いにしえの時代から、人々は土とともに生きてきました。
建物との関わりでいえば、日本では飛鳥時代以前から土壁が造られていたといわれています。
私がこうした日本古来の塗り壁に惹かれ始めたのは、30才の時に参加した講習会がきっかけでした。
全国から集まった同世代の左官職人たちの仕事に対する情熱と向学心をまのあたりにしながら、
塗り壁の伝統工法の奥深さに触れ、大きな衝撃と深い感動を受けました。
以来、天然の土に自然素材を混ぜ、昔ながらの工法で左官工事を手がけています。
最良の土を探し求めて
土は、生きています。壁となっても呼吸を続け、湿気を吸放出して、人々の暮らしに快適さをもたらしてくれます。
そして、土の呼吸に耳を澄ませて、その特性を最大限に引き出すことが私たち左官の仕事です。
左官仕事の依頼を受けると、私はそのお宅の壁に最もふさわしい土を探し求めます。
土は、採取場所の違いはもちろんのこと、地層の層の違いによっても色や粘り、粒子の大きさなどが異なります。
しかも、日本古来の塗り壁はその産地特有の土を使って、左官職人が手仕事で仕上げるため、
工業製品のように品質を均一化することはできません。
しかし、だからこそ世界で唯一の表情を生み出すことができるのです。
土と対話し、技を磨く
塗り壁は、下地の上に土などの素材を何層にも塗り重ねて仕上げていきます。
例えば、フラットな仕上がりにする場合は、ただ平坦に塗ればいいのではなく、
人の視覚に合わせて壁の中央を微妙に盛り上げなければなりません。
表面に波形をランダムに描くにも、職人のセンスと技と集中力が必要です。
それを身につけるために、私は工房の壁面を使って塗り方を何度も練習します。
静謐な空間で土と対話しながら、左官の技を磨く貴重な機会です。
後世に残る仕事をする
左官職人としての感性を養うため、土壁を巡る旅にもよく出かけます。
なかでも、秋田県で出逢った古い土蔵は印象的でした。その蔵は左官職人が3世代に渡り、60年かけて仕上げたものです。
当時の職人たちは、気が遠くなるほど息の長い仕事とどう向き合っていたのか。
道具の無い時代に、これほどまでに精巧な壁をどうやって仕上げたのか・・・その答えは多分、
私が左官職人の道を極めた先に見つかるのでしょう。そして、その土蔵を超える仕事をすることが私の目標でもあります。
住宅の工業化・商品化に伴って、日本古来の塗り壁は衰退の一途をたどってきましたが、
最近では、体や環境に優しいことや、調湿性、蓄熱性、塗り壁の風合いなどの特性が見直されてきています。
これからの時代に私が左官職人としてなすべきことは、伝統工法と現代の素材・技術とを融合し、
未来に受け継ぐことだと考えます。そして、後世に残る仕事ができるよう、精進を重ねる毎日です。